
タロットの小アルカナのなかで、物質的な苦しみと心の貧しさを最も鮮烈に描いた1枚があります。それがペンタクルの5です。
ペンタクルの5は「損失・疎外感」を象徴するカードです。吹雪のなか教会の明かりを通り過ぎる貧者たちの図像は、救いは目の前にあるのに気づけないという人間の哀しさを描いています。
この記事では、占い業界歴19年のプロ占い師・五十六謀星もっちぃが、ペンタクルの5の正位置・逆位置の意味を恋愛・仕事・金運の場面別に詳しく解説します。
ペンタクルの5の基本情報

- アルカナ: 小アルカナ
- スート: ペンタクル(Pentacles / Coins / Disks)
- カード番号: 5(Five)
- 元素: 地(Earth)。※ A.E. ティーレンスのみ独自説で「火」と解釈
- 別名: Lord of Material Trouble(物質的苦難の主)/Worry(心配・憂い)
- キーワード: 損失・疎外感・貧困・心の貧しさ
カードに描かれた図柄の意味
ライダー・ウェイト版のペンタクルの5には、吹雪のなかを歩く男女の貧者が描かれています。男性は松葉杖をつき足を引きずり、胸にはハンセン病患者を示す鈴を下げています。女性はショールだけで寒さをしのぎ、裸足で歩いています。背後には、ステンドグラスの明かりがともる教会の窓。救いの光はすぐそばにあるのに、二人は振り返ることなく通り過ぎていきます。
このカードをデザインしたA.E.ウェイトは、ペンタクルの5を次のように描写しています。
吹雪の中、灯のともる窓辺を通り過ぎる2人の物乞い。占的意味: このカードは何よりも物質的苦難 — 絵に示されるような困窮、あるいはそれ以外 — を予告する。一部の占術家にとっては愛と恋人のカードであり、一致・親和性も表す。これらの代替的解釈は調和させられない。逆位置: 無秩序・混沌・破滅・不和・放蕩。
— A.E.ウェイト『タロット図解』(1910年)(筆者訳)
ウェイト自身が「これらの代替的解釈は調和させられない」と書いている点が重要です。このカードには「貧困・苦難」と「愛・恋人」という、まるで正反対の伝統が並立しているのです。
意味の劇的な変遷
S.L.M.マザースの『The Tarot』(1888年)では、ペンタクルの5は次のように定義されていました。
ペンタクルの5 — 恋人・愛人・愛・甘美・愛情・純粋で貞淑な愛。逆位置 — 不名誉な愛・軽率・放縦・放蕩。
— S.L.M.マザース『The Tarot』(1888年)(筆者訳)
Mathers時代までは、ペンタクルの5は愛人・純愛のカードだったのです。Waite以降の「貧困・物質的苦難」とは正反対の意味でした。
しかしウェイトが絵柄を「吹雪を歩く貧者」に変えたことで、このカードの現代的な意味は一気に「物質的困窮」に固定されました。アレイスター・クロウリーも『The Book of Thoth』(1944年)で「経済システムは崩壊した」と直接的に表現しています。
現代のタロット実践では、Waite/GD系の「貧困・疎外感」で読むのが主流です。もっちぃ式もこの流れを踏襲しています。
胸の鈴が意味するもの
男性の胸にぶら下がっている鈴は、中世ヨーロッパでハンセン病患者が自分の接近を知らせるためにつけたものでした。つまりこの男性は、病気を理由に社会から排除された人物なのです。
これは単なる貧乏のカードではなく、社会的なスティグマ(烙印)を伴う疎外のカードです。経済的な問題だけでなく、「仲間から切り離された」という深い孤独感を含んでいます。
ただし、二人並んで歩いている点にも注目してください。同じ苦境のなかで、少なくとも連帯だけは保たれている。これがMathers伝統の「恋人・純愛」が完全には消えない理由でもあります。
目の前の救い
絵のもう一つの重要な要素が、教会の窓の明かりです。ステンドグラスの光は温かく、内側には救いがあることを示しています。しかし二人は振り返らず、ただ通り過ぎていきます。
これは「解決策は意外と身近にあるのに、自分の苦しみに閉じこもって気づけない」という構造を象徴しています。もっちぃ式では、正位置の「解決策は身近に潜んでいる」という読みと直結する重要な図像です。
クロウリーはこのカードを「Lord of Material Trouble(物質的苦難の主)」、略して「Worry(憂い)」と呼びました。「Worryの語源は『犬が羊をworryするように絞め殺す』という観念」と指摘し、単なる経済困窮を超えた精神を絞め上げる不安の性質を強調しています。
小アルカナ全体の位置付けについてはタロットカードの意味一覧も参考にしてください。
正位置の意味
基本的な解釈
ペンタクルの5の正位置は「損失」を意味します。疎外感、路頭に迷う感覚、自尊心の低さ、共倒れ的な関係性など、物質的にも精神的にも貧しい状態を示します。
もっちぃ式では、このカードの本質を「心の貧しさ」として読みます。本来捨てるべき物質へのこだわりを捨てきれなかった結果、かえって貧困に陥った人物像。お金のなさそのものよりも、豊かさを受け取れない心の状態のほうが核心にあります。
解決策としては、解決策は意外と身近なところに潜んでいることを思い出すこと。教会の明かりは目の前にあります。プライドを捨てて周囲の助けに気づけば、今すぐにでも状況は変わり得るのです。
恋愛での解釈
恋愛においてペンタクルの5の正位置が出た場合、一人ぼっちで寂しい、出会いがないという状況を示します。恋愛市場から自分が切り離されているような疎外感が中心にあります。
また、経済的な問題が恋愛関係に影を落とすケースも示します。お金がないから自信が持てず、出会いの場に行けない、誘われても断ってしまう、という悪循環です。
片思いの相談で出た場合は、相手との距離が大きく、あなたの想いが届いていない可能性を示します。アプローチの方向が間違っているというより、そもそもあなた自身が「自分は愛される価値がない」と思い込んでいるパターンです。
一方、同じ苦境にある二人が寄り添う連帯の恋愛を示すこともあります。経済的には厳しくても、苦労を共にすることで深まる絆。派手ではないが、人生の厳しい局面を共有する関係です。
交際中のカップルに出た場合は、お金や健康の問題が関係に影を落としている時期を示します。二人でこの冬を越せれば関係はより深まりますが、今は耐える時期という現実的な読み方をしてください。
仕事での解釈
仕事においては、経済的な不具合が生じている状況を示します。収入の減少、失業、事業の不振、急な出費、といった金銭トラブルです。
ウェイトは逆位置に「破滅・不和・放蕩」を与えていますが、正位置でも経済システムそのものの機能不全を示します。クロウリーが「経済システムは崩壊した」と書いたとおり、個人の努力ではどうにもならない構造的な困難が背景にあることも少なくありません。
転職を考えている場合は、急いで次の仕事に飛びつかないほうがいいという警告になることがあります。焦って条件の悪い仕事を受けると、結果的に長く苦しむ構造に入ってしまう危険があります。
ただし、正位置には「Conquest of fortune by reason(理性による運命の征服)」というウェイトの追加意味もあります。感情的に動揺せず、冷静な判断で苦境を乗り越える力を示唆しているのです。
金運での解釈
金運においては、損失・貧困・予期せぬ支出を示します。蓄えが底をつく、投資が失敗する、医療費がかさむ、など守ってきたはずのお金が流れ出ていく局面です。
ただし、もっちぃ式が強調するのは「お金よりも心の繋がりを大事にしましょう」というメッセージです。お金がないことを嘆くのではなく、お金では買えないものに目を向ける時期として読みます。家族、友人、健康、自分自身の時間 — これらはお金がない時期にこそ価値がはっきりします。
逆位置の意味
基本的な解釈
ペンタクルの5の逆位置は「自己憐憫」を意味します。正位置の苦難が内面化し、嘆いてばかりで行動しない状態に陥ります。
気持ちとしては、情けをかけられても状況を改善するレベルではない、余裕がなくなって仲違いする、といった泥沼化の傾向。不幸であることを理由にさらに不幸になっていく、マイナスのループです。
解決策は、他人や状況のせいにせず、今の自分が少しでも出来ることを模索すること。自分を被害者の位置に固定してしまうと、そこから抜け出す動きが一切取れなくなります。小さな一歩でもいいから、自分で踏み出す覚悟が必要です。
恋愛での解釈
恋愛において逆位置が出た場合、貧しさを言い訳にした不行跡(だらしなさ)を示します。「どうせ自分なんて」という自己卑下が、結果として相手を傷つける行動として表れます。
また、金銭目当ての恋愛や、打算的な関係の危険も暗示します。相手を「助けてくれるATM」として見始めると、関係が歪んでいきます。
片思いの相談で出た場合は、相手の同情に付け込もうとしている自分がいないか、確認してください。同情は一時的な感情であり、それで得た関係は長続きしません。
復縁の相談で出た場合は、寂しさに負けて過去の相手にすがろうとしている状態を示します。本当に戻りたいのか、ただ一人でいるのが怖いだけなのか、自問する必要があります。
仕事での解釈
仕事においては、苦境を言い訳にした手抜きや投げやりな態度を示します。「仕方ない」「自分のせいじゃない」という言葉が増え、周囲からの信頼を失っていくパターンです。
不況や業界の衰退を嘆くだけで、自分を再教育したりキャリアを再設計したりする努力を怠っている状態です。行動を起こさない限り、状況は改善しません。
また、職を失った後の長期停滞にも出やすいカードです。最初はショックから動けないのも当然ですが、時間が経っても動かないことが問題の本質になります。
金運での解釈
金運においては、貧困の慢性化を示します。一時的な困窮ではなく、抜け出せない構造的な金欠です。ギャンブルや怪しい投資で一発逆転を狙う誘惑も強まり、さらに傷を深める危険があります。
特に注意すべきは、金銭的な救済を求めて誰かに依存してしまうパターンです。一時的には救われても、そこから抜け出せなくなります。小さくてもいいから、自分の力で得たお金で立て直す覚悟が必要です。
このカードが示す人物像
ペンタクルの5が表す人物は、経済的な困窮と心の貧しさの両方を抱えた人物です。ただし、その原因は必ずしも本人だけにあるわけではなく、社会的な疎外や病気・不運など、外的な要因も絡んでいます。
ウェイトの描いた貧者は、ハンセン病という社会的スティグマを背負っています。つまり、単に怠けて貧乏になった人ではなく、構造的に社会から押し出された人を表すカードなのです。この点を理解すると、リーディングに深みが出ます。
もっちぃ式では、「本来捨てるべき物質へのこだわりを捨てきれなかったために貧困に陥っている人」とも読みます。一度裕福だった経験があり、その基準を捨てられないまま没落した元成功者、というイメージです。
一方、逆位置で出た場合は、貧民窟のギャングのような、貧しさを言い訳に不良行為に走る人物を示します。本来持っていた良識やプライドが、困窮のなかで崩れ去った状態です。
このカードが示す状況
ペンタクルの5が示す状況は、「物質的・精神的な冬」の局面です。
正位置の場合、あなたは経済的・社会的な苦境にあります。お金の問題、健康の問題、人間関係からの孤立、自信の喪失。複数の要因が絡み合って、出口の見えない状態になっている可能性があります。
ティーレンスは理論欄で「第9ハウス〈射手座のハウス〉の上の心臓の火……愛の放射、それが実際に恋人と愛人を作る」と記しています。伝統的には「放浪・徘徊・法的結婚の枠外の愛」というニュアンスもあり、安定した場所から追い出されてさまよう状況を示唆します。
逆位置の場合は、「苦境が常態化してしまった状況」または「被害者意識に固定されてしまった状況」を示します。最初は一時的だったはずの苦しみが、自分のアイデンティティになってしまい、そこから抜け出す意欲すら湧かない状態です。
クロウリーは「economic system has broken down(経済システムは崩壊した)」と表現しました。個人の努力を超えた大きな構造の問題として苦しみが迫っているとき、自分を責めすぎないことも一つの知恵です。
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リーディングのアドバイス
他のカードとの組み合わせ例
ペンタクルの5は単体では「物質的苦難」のカードですが、隣接カードで意味合いが変わります。
- ペンタクルの5 + 星: 苦境のなかに希望の光が見える。回復の兆し
- ペンタクルの5 + 太陽: 冬を越えた先の再生。苦しみの終わりと春の訪れ
- ペンタクルの5 + 隠者: 孤独のなかで内省を深める時期。一時的な引きこもり
- ペンタクルの5 + ペンタクルの10: 長期的には家族の支えで立ち直る暗示
- ペンタクルの5 + ソードの3: 心の痛みと物質的困窮が同時に起きる辛い時期
ペンタクルの5と塔の違い
どちらもネガティブなカードですが、性質が異なります。塔は突発的な崩壊、ペンタクルの5は長期化する慢性的な困窮です。
塔は「一瞬で何かが壊れる」ショックを、ペンタクルの5は「冬が続いている」持続する苦しみを表します。対応策も違い、塔では「受け入れて再出発」、ペンタクルの5では「目の前の光に気づく」がそれぞれのキーです。
初心者がよくする誤読パターン
ペンタクルの5で最もよくある誤読は、単純な「貧乏のカード」として扱うパターンです。このカードの本質は経済状況そのものよりも、心の貧しさ・疎外感・孤立にあります。お金があっても心が貧しければ、このカードの状況に陥り得るのです。
もう一つの誤読は、Mathersの「恋人・純愛」とWaiteの「貧困」のどちらを取るかで混乱するパターンです。現代の実践ではWaite/GD以降の「貧困・疎外感」で読むのが主流と覚えてください。古典にあたる時に混乱しないよう、意味の歴史的転換を頭に入れておくと安心です。
また、逆位置を「ただの悪化」と読むのも単純すぎます。逆位置の本質は被害者意識の固定化であり、相談者自身の内面の問題が前景化するのです。外部要因よりも、本人の心の持ち方に焦点を当てて読むと精度が上がります。逆位置の読み方全般については逆位置の読み方ガイドも参考にしてください。
実践的な読み方のコツ
ペンタクルの5のリーディングで最も重要なのは、「目の前の教会の明かり」に気づかせる読み方です。相談者は今、自分の苦しみに閉じこもって、すぐそばにある救いの手に気づけていないかもしれません。家族、友人、公的支援、昔の知り合い。誰でもいいから、一度頼ってみる勇気を持てるかが鍵です。
鑑定の現場では、「お金よりも心の繋がりを大事にしましょう」「今の苦しさは続かない冬です。春は必ず来ます」といった言葉がよく合います。ただし、単なる励ましで終わらせず、具体的に誰に・どうやって頼るかまで踏み込めるとベストです。
もう一つ、このカードが出たときに注意すべきは、相談者のプライドです。苦しい人ほど「助けてほしい」と言えません。占い師はその心理を汲み取り、プライドを傷つけずに手を差し伸べる道筋を提示する必要があります。リーディング力を高めたい方はタロットリーディングのコツも合わせてご覧ください。
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参考文献
- A.E. Waite, *The Pictorial Key to the Tarot*, London: William Rider & Son, 1910
- S.L. MacGregor Mathers, *The Tarot: Its Occult Signification, Use in Fortune-Telling, and Method of Play*, London, 1888
- A.E. Thierens, *The General Book of the Tarot*, 1928
- Papus (Gérard Encausse), *The Tarot of the Bohemians* (trans. A.P. Morton), London: Chapman & Hall, 1892
- Aleister Crowley, *The Book of Thoth*, 1944
著者紹介
五十六謀星もっちぃ / 占い業界歴19年。10代で占い師デビュー後、対面鑑定や電話占いで延べ5万人を鑑定。著書『1日2時間で月10万円 はじめよう電話占い師』(同文舘出版)、『五十六謀星もっちぃの占星術講義』(説話社・占い大学公式テキスト)。フジテレビ「ノンストップ!」等に出演。ananweb(マガジンハウス)で星占い記事「もっちぃ占ぃ」を担当。250人以上の占い師を育成。




