
タロットと占星術は、現代の占い師の多くが併用する二大体系です。しかし、タロット78枚すべてに占星術の対応を体系的に割り当てた古典は、驚くべきことにたった一冊しか存在しません。A.E. ティーレンス(Adriaan Emmanuel Thierens)が1930年に出版した『タロット概論(The General Book of the Tarot)』です。
この本にはA.E. ウェイトが序文を寄せています。ウェイトはティーレンスの吊るされた男(XII)の解釈について「他の誰よりも妥当な解釈に接近した」と高く評価しました。黄金の夜明け団系やB.O.T.A.系にも占星術対応は存在しますが、78枚全体を一冊で完結させた体系はティーレンス以外にありません。
本記事では、占い業界歴19年の筆者が、ティーレンスの著作の構造・中心思想を、英語原典の引用を交えながら解説します。タロット古典シリーズの全体像はタロットの古典 完全ガイドにまとめています。
ティーレンスとは何者だったのか
ウェイトが序文を寄せた占星術家
ティーレンスの伝記的情報は、原典の中にはほとんど残されていません。ウェイトは序文の中で繰り返し「Dr. Thierens(ティーレンス博士)」と呼んでおり、博士号の保持者であったことは確かです。出版社はフィラデルフィアのD. McKay Co.で、1930年の刊行です。
ティーレンスはオランダ出身の占星術家であり、別著として『Cosmology II, Elements of Astrology(宇宙論II、占星術の要素)』という占星術書を書いています。本書の中で2箇所この別著を参照しており、占星術が彼の本領域であったことがわかります。
ウェイトの序文はティーレンスへの高い評価を含んでいます。
「ティーレンス博士は、タロット大アルカナ第12番・吊るされた男について、他の誰よりも妥当な解釈に接近した」
— A.E. ウェイト、ティーレンス『タロット概論』序文(1930年)(筆者訳)原文: “Dr. Thierens has approximated more than anyone else towards a valid interpretation of Tarot Trump Major No. XII, being the Hanged Man.”
ウェイトが他の著者にこれほど明確な賛辞を送ることは稀であり、ティーレンスの体系が英米秘教界で一定の評価を得ていたことを示しています。
本書の構造 — 教義・占い法・全78枚解説
『タロット概論』は以下の構成です。
| セクション | 内容 |
|---|---|
| ウェイト序文 | タロット文献史の概観と本書の位置づけ |
| 第I部 教義(The Doctrine) | 基本原理、四元素対応、進化の螺旋、スートとハウスの対応 |
| 占い法 | ホロスコープ式展開法(独自) |
| 大アルカナ解説 | 22枚全てに占星術対応を付した個別解説 |
| 小アルカナ解説 | 56枚全てに占星術対応を付した個別解説 |
| エピローグ | 控えめな結語 |
各カード解説は統一フォーマットで書かれています。まずTRADITION(伝統的意味)として従来の解釈を紹介し、次にTHEORY(理論)として占星術に基づく自身の理論的解説を展開し、最後にCONCLUSION(結論)として実践的な意味をまとめる。この三段構成が78枚すべてに適用されています。
ティーレンスの中心思想 — 3つの柱
1. 大アルカナの占星術対応
ティーレンスの体系の骨格は、大アルカナ22枚の占星術対応です。
I〜XII番 → 黄道十二宮の順番そのまま
| カード | 対応 |
|---|---|
| I. 魔術師 | 牡羊座 |
| II. 女教皇 | 牡牛座 |
| III. 女帝 | 双子座 |
| IV. 皇帝 | 蟹座 |
| V. 教皇 | 獅子座 |
| VI. 恋人 | 乙女座 |
| VII. 戦車 | 天秤座 |
| VIII. 正義 | 蠍座 |
| IX. 隠者 | 射手座 |
| X. 運命の輪 | 山羊座 |
| XI. 力 | 水瓶座 |
| XII. 吊るされた男 | 魚座 |
XIII〜XXI番 → 惑星
| カード | 対応 |
|---|---|
| XIII. 死 | 土星 |
| XIV. 節制 | 水星 |
| XV. 悪魔 | 火星 |
| XVI. 塔 | 天王星 |
| XVII. 星 | 金星 |
| XVIII. 月 | 月 |
| XIX. 太陽 | 太陽 |
| XX. 審判 | 木星 |
| XXI. 世界 | 海王星 |
0. 愚者 → 地球そのもの
愚者に「地球」を割り当てたのはティーレンス独自の発想です。他の体系では愚者は「空気」「アイン・ソフ」「精神の原型」などに対応しますが、ティーレンスは人間が住むこの地球こそが愚者の領域だと考えました。この対応について、ティーレンスは古諺を引用しています。
「賢者はその星を支配し、愚者はそれに従う」
— ティーレンス『タロット概論』(1930年)が引用した古諺(筆者訳)原文: “The wise man rules his stars, the fool obeys them.”
2. 四スート四元素の独自対応
ティーレンスの体系で最も論争的なのは、四スートと四元素の対応です。黄金の夜明け団系の標準的な対応とは大きく異なります。
| スート | ティーレンス | 黄金の夜明け団系 |
|---|---|---|
| 杖(Wands) | 風(Air) | 火 |
| 金貨(Pentacles) | 火(Fire) | 地 |
| 杯(Cups) | 水(Water) | 水 |
| 剣(Swords) | 地(Earth) | 風 |
4スート中3スートが食い違っています。ティーレンスは「風を最高元素」とする立場を取り、ヘルメス・メルクリウスの杖(カドゥケウス)を根拠に杖=風を主張しました。
「あらゆる実用的な目的において、占星術においても同様に、神的なるものの最高の表現を与えうるのは風(Air)である」
— 同書(筆者訳)原文: “for all practical uses, in astrology as well, it is Air which is able to give the highest expression of the Divine.”
「知識と理解の主にして神々の使者の使いを運ぶ者たるヘルメス=メルクリウスは、その象徴として、二匹の蛇に巻かれ頂上に杯を載せたかの有名な杖を携えていた」
— 同書(筆者訳)原文: “Hermes-Mercury, Lord of the Element of Air, of Knowledge and Understanding, Bearer of the Message of the Gods, carried as his emblem, his well-known Wand encompassed by two snakes and bearing a cup on top.”
3. 進化の螺旋と三つの周期
ティーレンスは、タロットの四スートを三つの進化の周期(サイクル)に割り当てました。
| 周期 | 対応スート | 範囲 |
|---|---|---|
| 神的周期(Divine Cycle) | 杖/剣 | 牡羊座→魚座 |
| 個的周期(Individual Cycle) | 金貨 | 獅子座→蟹座 |
| 人格的周期(Personal Cycle) | 杯 | 射手座→蠍座 |
「神的知性が、我々の概念においてすべての進化の始まりである以上、進化の螺旋は必然的に杖のスートから始まらなければならない」
— 同書(筆者訳)原文: “Divine Intelligence being the beginning of all that to our conception means Evolution, the Spiral of Evolution must necessarily open with the suit of Wands”
さらに、コートカード(キング、クイーン、ペイジ、ナイト)は数札(1, 2, 3, 4)の「高次のオクターブ」として、同じ宮の原理を人格化したものだとティーレンスは述べています。
ホロスコープ式占い法
ティーレンスは独自の展開法として、ホロスコープ(12ハウス)の円を骨格とする三層構造の占い法を提案しています。大アルカナの黄道12枚で基盤を作り、小アルカナ56枚で詳細を読み、惑星カード10枚と愚者で相談者の選択的要素を加える、という手法です。
占いの限界についても、ティーレンスは謙虚な認識を示しています。
「すべてに答えが得られるわけではないことは、まったくの確実事である。すべての質問に答えた託宣など、これまで存在したことがない」
— 同書(筆者訳)原文: “It is absolutely certain, that one does not get everything answered. There never was an oracle that answered all questions.”
そしてエピローグでは、次のように控えめに締めくくっています。
「我々は本書における記述を、完全さについては最も謙虚な留保をもって提供する」
— 同書(筆者訳)原文: “We offer the descriptions in this work with the most humble reserve as regards completeness.”
後世への影響 — 占星術タロットの座標軸
黄金の夜明け団系との位置関係
ティーレンスの四元素対応が黄金の夜明け団系と大きく異なることは、タロット占星術の「唯一の正解」が存在しないことの証拠です。どちらの体系にも論理的根拠があり、どちらを採用するかは実践者の選択に委ねられています。
ティーレンスの体系は、黄金の夜明け団系に比べて採用者は少数ですが、「占星術の論理からタロットを読む」というアプローチの純粋な形として独自の価値を持っています。占星術を先に学んだ人がタロットに入る場合、ティーレンスの対応体系は、黄金の夜明け団系よりも直感的に理解しやすいという評価があります。
ウェイトの推薦の重み
ウェイトが序文を寄せた最後の世代のタロット著作であることも、ティーレンスの位置づけを特別なものにしています。ウェイトは序文の末尾で「毎年新しい考察が生まれ、ティーレンス博士はさらなる著作を約束している」と述べ、ティーレンスの仕事への期待を表明しています。
実践に活かすティーレンス的視点
ティーレンスの体系は、現代のタロット実践に直結する二つの視点を提供します。
一つめは、カードを「星座で読む」こと。 ティーレンスの対応表を手元に置いて、引いたカードの占星術的対応を確認してみてください。たとえば「恋人」が出たら乙女座——分析、識別、実用的な知恵——を連想する。通常の「選択」「恋愛」という読みとは異なる角度が開け、リーディングの幅が広がります。
二つめは、「すべてに答えが得られるわけではない」という姿勢。 ティーレンスが述べた「すべての質問に答えた託宣など存在しない」という謙虚さは、リーディングの現場で忘れがちな大切な前提です。カードが明確な答えを示さないとき、それは占い師の力不足ではなく、「この問いには今は答えがない」という正直なメッセージかもしれません。
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タロット古典シリーズ全体はタロットの古典 完全ガイドに集約しています。ティーレンスと直接関係の深い個別記事は次の通りです。
- A.E.ウェイトと『ピクトリアル・キー』 — ティーレンスに序文を寄せた20世紀最大のタロット普及者
- 黄金の夜明け団のタロット体系 — ティーレンスとは異なる占星術対応を持つ結社教義
- P.D. ウスペンスキーとタロットの象徴 — ティーレンスが肯定的に参照した同時代の著者
- マンリー・P・ホールとタロットの百科全書的展望 — 同時代の百科全書的タロット著作
- エリファス・レヴィとオカルト・タロットの誕生 — ティーレンスの体系が暗黙に前提とするカバラ的伝統の出発点
タロットの時系列的な歴史はタロットの歴史で別途まとめています。
このカードで占ってみる
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自分の解釈に自信がないときは、タロット道場AIにカードと質問を入力して、フィードバックを受けてみてください。典拠を踏まえた読みと、AIが示す読みを比較することで、自分の解釈の癖や盲点が見えてきます。
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参考文献
- A.E. Thierens, The General Book of the Tarot, with a Foreword by A.E. Waite, Philadelphia: David McKay Co., 1930
- A.E. Waite, The Pictorial Key to the Tarot: Being Fragments of a Secret Tradition under the Veil of Divination, London: William Rider & Son, 1910
ティーレンス(1941年没)の著作は日本の著作権法(著作者死後70年)に基づき2012年をもってパブリックドメイン入りしています。本文中の日本語訳はすべて筆者訳です。
著者紹介
五十六謀星もっちぃ / 占い業界歴19年。10代で占い師デビュー後、対面鑑定や電話占い、占星術の連載や多数のメディア出演を経験。著書『五十六謀星もっちぃの占星術講義』(説話社)、『はじめよう電話占い師』(同文舘)。延べ5万人を鑑定し、250人以上の占い師を育成。





