ナチスが利用したことなどにより、優生学はまるで悪魔の理論であるかのように忌み嫌われ、今日では存在そのものがないかのごとくにあしらわれています。ゴルトンが主張したことが、今日でもそのまま使えるということはありませんが、実はゴルトンの研究成果は、今日の占い師にとって有益な情報なのではないかと思い、まとめてみました。なお、ゴルトンは『種の起原』のダーウィンの従兄弟で、同時代を生きています。
優生学とは何か
優生学とは、人の才能は環境ではなく遺伝によって決まるという前提で構成された理論です。優れた名声を上げた人間の身内には、同様に名声のある人物がそろっていることを論拠に、優生学を組み立てました。占いの世界においても、しばしば父方の遺伝や母方の遺伝などという表現で運命や性質を語りますが、その言説はゴルトンのそれと根底的に共通する点があるといえましょう。
人間の品種改良を説いた
優生学が後にタブー視までされるようになった原因は、優秀な人物同士が優秀な子供を残すことによって「人類の品種改良」ともいうべきことを提唱してしまったことにあるといえるでしょう。ゴルトンは、統計学の能力を駆使して、才能のあるカップルが、そうでないカップルよりも11年早く結婚した場合、200年後には優秀な人物がそうでない人の26倍になるという計算を導いたのです。今日ではこうした考え方が差別につながることを指摘されていますが、『優生学の名のもとに』の著者であるダニエル・J・ケヴルズのいうところでは、ゴルトンの著作群から差別意識を見いだすことはできないとのことです。
ゴルトンの法則
能力がどれくらいの割合で遺伝するかということについて、ゴルトンは統計的処理を駆使して導きました。彼によると、ある人物の能力はその4分の一ずつを父と母から受け継ぎ、16分の1ずつを祖父母から、そして曾祖父母から64分の1ずつ受け継ぐというようなモデルで説明できるそうです。これをゴルトンの法則といいます。これはメンデルの遺伝の法則が注目を集めるよりも前に発表されています。今日では遺伝学の発展とともにこの法則は否定されていますが、競馬の世界においては、今でも駄馬同士の子供に名馬が誕生する理由の説明として信奉されています。
指紋についての研究
ゴルトンの主たる研究は人の才能が遺伝するかどうかということでしたが、そこから派生する研究もかなり注目に値するものが目白押しです。中でも占い師が注目するに値するのは指紋に関する研究です。手相占いの世界で、指紋に注目がいきにくい理由は、実はゴルトンの研究と関係しているのかもしれません。
指紋が犯罪捜査に使われるのはゴルトンの功績
今日では、指紋といえば犯罪操作において、犯人を特定する最終的な決定打になるものという印象が強いと思います。実は、このように犯罪捜査において指紋が活用できるようになったのは、ゴルトンの功績とされています。指紋が各人ですべて異なり、その指紋のパターンを共有する人がいないことを初めて科学的に証明したのがゴルトンなのです。ゴルトンの著書を読んだアルゼンチンの警察官が採取した指紋により有罪判決を受けた27歳の女性殺人犯が、指紋によって特定された最初の犯罪者です。
指紋から人物像を読み解く研究も行った
ゴルトンは、何も最初から犯罪捜査の確にするために指紋の研究を行ったわけではありません。彼が研究の課題として設定していたのは、指紋と人物の関連性を特定することでした。そのためにあらゆる人種の指紋を採取しましたが、その結果、人種ごとに異なる指紋の傾向を見つけることができませんでした。また、病院において最も過酷な知的障害を持っている人物と、名声を集めた成功者の指紋を比較しました。その結果、統計的に有意な証拠を何一つ見つけることができず、ついに指紋のパターンから人物像を読み取ることはできないという結論をだしました。
占いにおいても、指紋のパターンから何かの結論を出すことは古来ほとんど行われず、手相占いは手のひらの太い線の形状を中心として観相されます。ゴルトンの研究は、手相占いの着眼点の正しさを証明してるといえるかもしれません。
占い師が知っておきたいゴルトンの心理的業績
ゴルトンの研究や興味は様々な分野に向いています。若い日には、六分儀を使って、とある魅力的な女性の体のサイズを測定するなどという破廉恥な研究に手を染めたこともあるそうです。それはともかくとして、ゴルトンが残した心理的な分野の業績も紹介します。
祈りの効果を検証
ゴルトンは、祈りの効果を科学的に検証したことがあります。この研究でいうところの「祈り」とは、もちろんキリスト教徒の祈りのことです。検証の方法は至ってシンプルで、イギリス中でもっとも「祈り」を受けている人物である女王が、同じように不自由なく暮らす貴族と比べて長生きしているかを調べたのです。すると、多くの国民から「神よ、女王を救いたまえ」と祈られている女王の寿命は、至って普通だったことがわかったのです。これによってゴルトンは、祈りには効果がないと結論付けて、聖職者を敵に回しました。
心理を測定する研究
ゴルトンは様々な方法で、心理を測定する研究を行っています。残念ながらこの結果をまとめた書籍は存在せず、十分な説明がなされていません。その理由は、実験の結果が膨大で処理しきれないからだそうです。特に有名なのは、言葉の連想やアラビア数字に人格や色を当てはめる研究です。他にも『心理学の7人の開拓者 (りぶらりあ選書)』に記載されているものを引用します。
一 自分自身で自分の呼吸の自動調節を乱した時の結果
『心理学の7人の開拓者』レイ・フラー編
二 自分が出会ったすべてのものに、スパイという属性を想像の上で加えることによって、自分の心のなかにパラノイアを引き起こす試み
三 神に対する畏敬の念を「パンチ」の絵に対してもつことによって、偶像崇拝を理解する試み
四 自由意思をもっているかどうか調べるための、六週間にわたる絶え間ない自己観察
まとめ
ナチスに利用されてしまったがために、著しく不名誉なイメージのついてしまったゴルトンではありますが、実際にはかなり科学的で熱心な研究を行っていた印象があります。優生学そのものについても、政治に関する知識といいましょうか、巧みさが不足していた点はあるにしても、着眼点に意義深いところがあるのは確かであるといえましょう。占い師の目線では、才能と遺伝の関係性、そして生まれた瞬間に環境によらず定められる人格の存在についてはロマンを感じるところです。