導入:発達障害と占い師の意外な親和性
近年、大人の発達障害が広く認知されるようになりました。ASD(自閉スペクトラム症)やADHDの特性を持つ方々が、社会の中でどのように自分の力を発揮できるかという議論は、以前にも増して活発になっています。
占い師という仕事を選んでいる人の中には、ASDやADHDと呼ばれる特性を持つ人が少なくありません。「一般的な仕事が合わないから占い師になった」と見なされることもありますが、筆者はそうではないと考えています。発達障害の特性そのものが、占い師という仕事と親和性が高い可能性があるのです。
今回は、発達障害の特性がなぜ占い師という職業と結びつきやすいのかを、具体的に検討してみたいと思います。
発達障害とは――ASD・ADHDの概要と用語の変遷
まずは発達障害の基本的な概念を整理しておきましょう。発達障害とは、心身の発達に偏りがある状態を指す総称です。病院で正式な診断を受けている人ばかりではなく、診断には至っていないものの特性を持っている方も多くいます。知的な問題を必ずしも伴うわけではないため、本人も周囲も気づかないまま過ごしているケースは珍しくありません。
ASD(自閉スペクトラム症)とは
かつてアスペルガー症候群と呼ばれていた特性は、現在ではASD(自閉スペクトラム症)として統合的に理解されています。DSM-5(精神疾患の診断基準)の改定により、従来の自閉症やアスペルガー症候群という区分はASDという一つのスペクトラム(連続体)として捉えられるようになりました。
ASDの方々は、対人関係における暗黙のルールを理解することに困難を感じたり、特定の対象に対して強いこだわりを持つ傾向があります。例えば、会議の場で言外の合意を読み取ることが難しかったり、慣習よりも論理を優先して物事を判断しようとする場面が見られます。独特の興味関心を持ち、特定の分野に深く没頭する方も多くいます。
ADHDとは
ADHDは、注意欠如(Attention Deficit)と多動性(Hyperactivity Disorder)を合わせた概念です。平たく言えば、一つのことに注意を持続させることが難しく、思考や行動が活発に動き続ける特性を持つ状態です。
興味が湧かない分野に対しては集中の維持が難しい一方で、自分が興味を持ったことに対しては「過集中」と呼ばれるほど深く没入する傾向があります。この二面性が、ADHDの最も特徴的な部分です。
その他の発達障害
発達障害に分類される症例には、上記の他にも学習障害(LD)と知的障害があります。これら二つは似て非なる概念です。知的障害は脳の機能が全般的に制約される状態を指すのに対して、学習障害は言語や計算など特定の分野に対しての学習能力に困難が生じるものです。これらについては、今回の「占い師に向いているかどうか」というテーマからは外れるため、別の機会に検討したいと思います。
ASD(旧アスペルガー症候群を含む)の特性と占い師への適性
ASDの人たちは、曖昧なものが苦手で、規則性のある整った論理を重視します。その影響もあってか、論理的な思考力が非常に磨かれている方が多くいます。
一般的には、プログラマや研究者のような知的作業を積み重ねる職業に向いているとされています。曖昧なものよりも体系的に整理されたものを好む傾向は、コンピュータサイエンスなどの分野との相性の良さとして知られています。
マイクロソフトの日本法人の社長を務めた成毛眞氏は、著書『発達障害は最強の武器である』(SB新書、2017年)の中で、マイクロソフト本社にはASDの特性を持つと思われる人が多数いたと述べています。氏自身も発達障害の特性を自認しており、それが仕事において強みになりうることを説いています。発達障害と仕事の関係に関心がある方には一読をお勧めします。
一方で、ASDの方は人の心の繊細な機微を察知することを苦手とする場合が多いです。そのため、空気を読んで臨機応変にサービスを提供する接客業や、暗黙の慣習が複雑な組織には馴染みにくいかもしれません。
ADHDの特性と占い師への適性
ADHDの最大の特徴は、注意力の配分に関することです。興味が湧かない分野に関しては集中を維持することが難しいため、単純作業の繰り返しが中心となるような仕事には向いていないと考えられています。反対に、自分が興味を持った分野では強烈な集中力を発揮するため、専門職で活躍することが期待されます。
マルチタスクを苦手とするのもADHDの特徴の一つです。そのため、同時に複数の処理を求められる仕事は合わない可能性があります。しかし、占い師の鑑定は基本的に一対一の対話です。目の前の一人のお客様に集中できる環境は、ADHDの方にとって力を発揮しやすい構造だと言えるでしょう。
発達障害と起業――ミュンヘン工科大学の研究から
天才と呼ばれるほどの人物には変わり者が多いという指摘がありますが、実際に発達障害を持っていたとされる偉人は枚挙にいとまがありません。エジソンがADHDであったとする説はあまりに有名です。近年のIT業界においても、発達障害の特性を持つ経営者は少なくありません。
2016年のミュンヘン工科大学の研究によると、発達障害の特性を持つ人に最も向いている仕事の一つは起業だとされています。起業の初期段階で最も重要とされる「決断力」と「リスクを取る能力」の高さが、その理由です。既存の常識にとらわれず、独自の感性に従って新しいアイデアを生み出すことができる点も、起業家として大きな強みになりえます。
もちろん、誰もが会社を興したいわけではありませんし、経営に関する知識や経験が不足している場合もあるでしょう。しかし、占い師になるにはで解説しているように、占い師は個人で始められる専門職です。起業のハードルが比較的低く、自分の専門性を直接活かせるという点で、発達障害の特性を持つ方にとって有力な選択肢の一つになりうると考えています。
占い師という仕事と発達障害の親和性
さて、ここからは占い師という仕事との具体的な親和性について検討してみます。発達障害の特性がどのように占い師としての強みにつながりうるのか、いくつかの観点から見ていきましょう。
忖度が苦手であること――切れ味の鋭い占い
発達障害の特性を持つ方の中には、曖昧なコミュニケーションから相手の意図を汲み取ることが苦手な人もいます。通常の接客業においては不利に働くことがあるかもしれません。
しかし、占い師という仕事においてはこの特性が逆に強みになりえます。特にアスペルガーの特性を持つ方は、お客様が期待する答えに流されることなく、占いの結果と自らの分析に基づいた率直な答えを、ためらいなく伝えることができます。占いが示す結果は、ときに常識外れで突拍子もないものになることがありますが、そうした答えをお客様に正直に伝える姿勢は、占い師にとって非常に重要な資質です。
占いというのは、常識に沿った無難な答えを出すだけでは価値がありません。切れ味の鋭い鑑定ができる占い師には、忖度しすぎない姿勢が欠かせないのです。
暗黙のルールの言語化――理論的なアドバイス
ASDの特性を持つ方は、暗黙のルールをそのまま感覚で受け入れるのではなく、それを言語化し、論理的に理解しようとする習慣を身につけていることが多いです。
この習慣は、占い師としてのアドバイスに大きく活きる可能性があります。例えば、恋愛の駆け引きのような繊細な領域においても、アスペルガーの特性を持つ方がその構造を論理的に分析できたなら、感情的な曖昧さを取り払った、実用的で再現性のあるアドバイスとして提供できるでしょう。
「なんとなくこうした方がいい」ではなく、「こういう理由で、この手順を踏むとよい」という具体的な提案ができること。これは、ASDの特性を持つ占い師ならではの強みになりうると筆者は考えています。
過集中――占術研究への没頭
一つの対象に対する過剰なまでの集中力は、占いという専門技術を磨くうえでも大きな力を発揮するはずです。占星術のようにロジカルな体系を持つ占術に対して深い探究心を持ち、膨大な知識を体系的に吸収していくことは、ADHDやASDの特性を持つ方が得意とするところです。
占い師として必要な情報を的確に集め、独自の視点で分析する力を備えている方であれば、短期間のうちに高い技術を身につけることも十分に期待できます。
まとめ
一般的な社会環境ではその特性をうまく発揮できないと感じている発達障害を持つ方にとって、占い師という仕事は有力な選択肢の一つになりうると、筆者は考えています。忖度しない率直さ、暗黙のルールを言語化する力、そして過集中による専門技術の習得――これらはいずれも、占い師として価値のある特性です。
もちろん、発達障害であれば誰でも占い師に向いているとは限りません。向き不向きは個人によって異なりますし、占い師として活動するには占術の学習や実践の積み重ねが必要です。しかし、「自分には一般的な仕事が合わないかもしれない」と感じている方が、占い師という可能性に目を向けるきっかけになれば幸いです。
占い師になるにはという記事では、占い師になるための具体的な方法を幅広く解説しています。占い師という仕事に少しでも興味をお持ちいただけましたら、そちらもぜひご覧ください。
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著者紹介
**五十六謀星もっちぃ** / 占い業界歴19年。10代で占い師デビュー後、対面鑑定や電話占い、占星術の連載や多数のメディア出演を経験。鑑定人数は延べ5万人、占い師の育成人数は250人を超える。著書『五十六謀星もっちぃの占星術講義』(説話社)は占い大学公式テキスト。
参考文献
・成毛眞『発達障害は最強の武器である』SB新書、2017年
・『大人の発達障害 アスペルガー症候群、AD/HD、自閉症が楽になる本』集英社文庫
・『居場所がほしい――不登校生だったボクの今』岩波ジュニア新書
・Verheul, I., Thurik, R., Hessels, J., & van der Zwan, P. (2016). “ADHD-like behavior and entrepreneurial intentions.” *Small Business Economics*, 46(3), 369-383. (ミュンヘン工科大学関連研究)




