激励禁忌は正しいのか
うつの人に「頑張れ!」と言ってはならないという話は、もはや誰もが聞いたことがある言説だと思います。このようなうつの人を励ましてはならないという概念を、専門用語では「激励禁忌」と言うそうです。2009年に精神科医の井原裕氏は『激励禁忌神話の終焉』 のなかで、必ずしも激励が禁忌ではないことを示唆しました。今回はこの激励禁忌の背景と、占い師の立ち回り方について考えてみたいと思います。
「頑張れ」が禁忌される理由
その人はすでに頑張っている
「頑張れ」という言葉がタブー視される理由の急先鋒は、 「頑張れ」という言葉が気楽に使われることで、その対象となる人のこれまでの頑張りが否定されるというものです。すでに痩せている人に対して「ダイエットをしろ」とは言わないでしょうから、確かに「頑張れ」という言葉は「頑張っていない人」に対して向けられるという印象をもたれても仕方ありません。
本当の意味で相手を励まそうと思う気持ちがあるなら、相手の既存の頑張りを認めた上で、その人に勇気を与える言葉を選ぶ必要があります。特にうつ状態にあって気力がわきにくい人の頑張りは、元気いっぱいな人からするとわかりにくいものなのかもしれません。しかし、だからこそなおさらに、うかつな「頑張れ」は大変に失礼な言葉であるともいえましょう。
うつ状態の深刻さが軽視されていると感じてしまう
気力がなく落ち込んでいる状態の人に対して、「頑張れ」と声をかけることは、裏を返せば「あなたの状態は頑張ればどうにかなる問題だ」と指摘していることに他なりません。全てのことが頑張るだけでどうにかなるわけではありません。半身不随の状態にある人に、頑張って歩けと言ってもすぐには無理であるのと同じように、状況を見て声をかけることは必要です。
「頑張ってどうにかなるならとっくに頑張っている」と思いながらも、やはり頑張ってもどうにもならないために病床にいる人はたくさんいます。努力でどうにかなる状況なのかどうかを正しく見極めることが出来ていないうちに「頑張れ」と声を掛けるのは、これもやはり不適切な言葉がけであると言わざるを得ません。
頑張れが励ましではない場合もある
これは特に職場の上司などからかけられる場合に起こりやすいことですが、そもそも「頑張れ」の言葉が、激励としての意味をなしていない場合もあり得ます。それはつまり、本人のために「頑張ること」を推奨しているのではなく、会社や組織のために「頑張ること」を強制している場合のことです。頑張ることを期待されすぎることでうつになる人もいるわけです。
過剰労働が原因でうつになった人については言うまでもないことですが、責任感の強すぎる人や生真面目すぎる人に対しても、「頑張れ」の言葉はダメージになってしまう恐れが高いといえます。
結局「頑張れ」れはいいのか悪いのか
海外では治療の一環
そもそも激励禁忌という概念は、日本のみの文化であるそうで、少なくとも英語圏においては、治療の中で普通に激励が行われるそうです。前述の井原氏は、 m3.comのインタビューでこのように答えています。
忘れてはいけないのは、うつ病患者が『頑張れ』と言われると、機械仕掛けに自殺するという考えもあるが、そういうことはないということ。海外においては、教科書にも激励という言葉は頻出し、むしろ激励しなければ治療にならない考えもある
『 うつ病の激励、「一律に禁忌」の時代は終わった 』https://www.m3.com/open/sanpiRyouron/article/126769/
自信がないなら言わない方がいい
究極のところ、「頑張れ」と言っていいのか悪いのかは状況次第と言うことになるようです。医療の専門家の間でも意見が割れているところがある訳ですし、医療者ではない占い師にとっては難しい問題といえます。一概に禁忌ではないということを頭に入れておいて、明らかに激励が必要な場面では、「結婚式で不倫の話をするようなタブー」とは思わなくてもよいのでしょう。
しかし、一律のタブーではないからと言っても、どうするべきかの自信がない場面で無理して励ます必要はないと思います。松尾芭蕉は「名人はあやふき所に遊ぶ」と言っていますが、占い師がそんな曲芸をする必要はありません。
「応援しています」でよいのではないか
私は、元気のないお客様に対して「頑張ってください」と言いたくなるような場面では、「応援しています」という表現を多用します。これは、応援している気持ちを伝えるだけの言葉であり、これまで見てきた「頑張れ」の問題点に一切抵触しません。他にもよい言葉はたくさんあると思いますが、安全な言葉選びをして、決して相手を傷つけないことが占い師として大切であると五十六謀星もっちぃは信じています。