今回は、占い師なら誰もが知っている古典の名著、『南北相法』について紹介します。具体的な細かい内容は専門の占い師さんが書いているブログが他にたくさんあります。ここでは、相術の専門家ではない占い関係者の方、あるいは占い師になるにはどうしたらよいかを迷っている人たちに向けて、水野南北の世界を駆け足で紹介したいと思っています。
「命卜相」のうち「相術」に関する研究が語り尽くされている
『南北相法』は一言で言ってしまえば、相術に関する指南書です。顔や手などといった体の部位はもちろんのこと、言葉遣いや呼吸、果ては国風の見方までも紹介しています。
観相の心構えから始まる
観相とは文字通り相を見ることです。『南北相法』は、相を見る際の姿勢の正し方から始まり、観相とはどのようなことなのかといった心構えや哲学が解説されています。
初版は江戸時代で何度か焼き直しがされている
『南北相法』の最初の一冊が発行された時期は正確にはわかりませんが、1818年から1834年の間であろうと推定されます。当時の版元は、山城屋文政堂という名前で今も事業が継続しており、現在は真言宗の書籍を専門に出版しています。『南北相法』は何度か再出版されています。最も新しいものは1980年に現代語訳されたものです。
実際に書いたのは水野南北の門人
水野南北の発案した相法を書籍として実際に記したのは、水野南北本人ではなくその門人です。水野南北自身は目に文字がなく、本の読み書きに不自由があったと伝えられています。また、文盲であったが故に、当時流行していた暦を使った占いをすることができず、その分一心不乱に観相法を極めたとする説もあります。
人体についての観相法
水野南北といえば、髪結い床、湯屋、火葬場で3年ずつの修行を通じて、人体の特徴をつぶさに観察して観相を大成した人物です。それ故に、『南北相法』においても、最大の分量を占めているのが人体についての観相法です。
手相
『南北相法』における手は、体全体を木の幹とすると枝のような存在であるとされています。枝振りがよい木は全体に尊く、枝が枯れていれば木全体も賤しいのだから手相が特に大切であると書かれています。
水野南北による手相の見方は、今日の日本で一般に普及している西洋手相術とはかなり異なっています。一般に西洋手相術では、手のひらにある三本の重要な線を上から「感情線」「頭脳線」「生命線」といい、それぞれ言葉通りに人の特性と関連付けられます。南北の手相術では、それを「天紋」「人紋」「地紋」とよび、それぞれ「目上の存在」「その人自身」「家のこと」を示しているとされています。
このほかにも、手の出し方や指の形や爪の様子などについても、いろいろな説明がなされていますが、今日の手相のような細かい線の説明はあまりなされていないという特徴があります。
人相(顔相)
人の顔の相についても、たくさんの記述があります。顔にある傷や黒子とその位置による人の運命方の影響から始まり、顔をそれぞれのパーツごとに細かく様々な見方が解説されています。水野南北はたくさんの人の体を見て観相法を大成した人物ではありますが、この本で解説されている内容は意外と演繹的で、統計的なデータを元にしているという感じではありません。
例えば、眉からわかることは身内や子孫のことであるとされていますが、その理由は毛というのは血から生えてくる苗のようなものであるからして、血脈に通じるものであるという説明がなされています。
体のほかの部位
手や顔のほかにも、人体の様々な部位についての相の見方が紹介されています。肩や骨格、臍や性器に至るまで、体の部位という部位について、その意味合いと形状の吉凶を示しています。
人体以外についての観相法
『南北相法』には、体の部位とは呼べない形のないものについてもいくつか論じられています。その代表的な内容をいくつか紹介します。
言語や息について
個人に関連するものとしては、言語や息についての相の見方が紹介されています。例えば、言語には人の貴賤が現れ、貴い人は自然と言葉も貴くなるそうです。また、せわしない話し方をする人はせわしない人生を送るなど、言葉遣いそのものが人生を体現していると南北はいいます。
また、息は丹田から出るものであるが故に、その腎気の強弱と心気の吉凶を知ることができると記されています。つまり健康状態がわかるという意味です。太っている人は息が強くて健康であり、口呼吸をしている人は気力が弱くなり易いと書かれています。
国風について
これはもはや個人の特性と関係するのかどうか微妙なところですが、国風を論じるのは相者の常であると断じています。ここでいう国風とは、出身地域のことです。南北の活躍した時代を考えるとこれは日本やアメリカという意味ではなく、備前や肥後などといった昔の国を指しています。出身地域の大きさや地理的条件によって、人がどのような性質になるかをいろいろと論じています。例えば日照時間の長い地域の人は陽気で、北国の人は陰気であるなどと書かれています。
まとめ
全体を通じて読みやすく、昔の占い師がどのような考えで人の体を見ていたのかをよく理解することができる名著です。今の占いと比べると相当に辛口です。体のパーツそれぞれについて、特徴ごとの運勢の見方を説明している点は、現代の人相術の本にも引き継がれていると言ってよいでしょう。