これまでも、何人かの偉大な作家のホロスコープを解説して参りましたが、今回は太宰治のホロスコープを取り上げてみたいと思います。映画『人間失格』が公開され、現在でもまだまだ現役の物語として社会に根付いている太宰作品ですが、作者本人はどのようなホロスコープを持っているのでしょう。五十六謀星もっちぃの占いの着眼点で解読してみます。
ホロスコープの全体像
今回もホロスコープは、五十六謀星もっちぃのオリジナルソフト、Prophetessクラウド版を利用して作図しています。ハウスシステムはプラシーダスです。チャートは下図の通りです。チャート画像は好きに転載していただいて大丈夫ですが、リンクをいただけると助かります。
出生時刻などの情報
太宰治は1906年6月19日に青森県の北津軽郡で生まれました。太宰治の出生時刻については、正確な時間の記録は残されていません。しかし、太宰本人が、自分の出生について疑いを抱き、周囲に自分の出生時の様子を聞いて回ったことがあるそうです。そのときの情報によれば、太宰が生まれたのは夕暮れ時だったとのことです。
当日の現地の日の入り時刻は19時11分ですから、それを考慮すると、18時くらいの出生であると考えるのが妥当ではないかと思います。今回はレクティファイなどは行わず、18時の出生をそのまま採用し、ハウスは無視して月のサインは信頼するという方針で解説します。
天体のバランス
天体の配置は、やや右側に偏りがあります。出生時刻が曖昧なため、ハウスは確定しませんが、少なくとも夕暮れという時刻から考えても、西の地平近くに天体が集中していることは確かです。一般に、ホロスコープの右側エリアに天体が集中している人は、他人とのつながりによって人生を切り開いていくと考えられます。
また、エレメントのバランスにも大きな偏りがあります。10大感受点の半数が水の星座宮に収まっていて、代わりに火の星座宮にはヘッドしかありません。これは、非常に流されやすく、ロマンに溺れるような性質を示しているといえましょう。火の星座宮に天体がない場合には、自己防衛のための攻撃性を上手に持つことができず、ずっとため込んで一気に爆発する人柄を生じることがあります。中也や三島に傷つけられたのは、こうした性質の影響なのかもしれません。
主要天体のサイン状況
ふたごの太陽とおうしの月ですが、深めの度数にあるこれらの天体は、それぞれ相反する性質で葛藤していると考えることができそうです。ふらふらと浮き足立つように移ろいゆく生活と、本当はのんびりまったり過ごしていたい内心がぶつかり合い、精神的に満たされない不安な日々を送っていたことを想像させます。
また、主要な個人天体の多くが、巨蟹宮に集結して、オーバーロードを呈しています。かにの意味するところの、出生のルーツや家庭などといったテーマが、人生の中での葛藤の在処になることを暗示するような配置といえるかもしれません。
ホロスコープの特徴や着眼点
ホロスコープの配置やエレメントのバランスには強めの特徴がある太宰のホロスコープですが、全体的には少し地味なホロスコープに見えるかもしれません。次は少し掘り下げて、このホロスコープの特徴としてあげるべきマニアックな着眼点を紹介しましょう。
水星のビシージ
太宰治のホロスコープの水星は、火星と海王星という二つのまれフィック天体に挟まれています。これはビシージ、もしくはや包囲などと呼ばれる形で、挟まれている天体はその効力が弱くなってしまうとされています。ほとんど発生することがない、とても珍しい配置です。おまけに天王星のオポジションまで刺さっているわけですから、普通に考えたらこの水星が働いているとはとても思えません。ましてや、このホロスコープだけを見て、この星の持ち主に作家という仕事が向いているとは考えつきにくいところです。
実際には、ある種の作家、特に自己の内面を削り取るような苛烈な作風を持つ純文学の作家においては、水星がダメージを受けていることが普通です。五十六謀星もっちぃの書いた他の作家のホロスコープ解説でも度々登場しているテーマです。これはもしかすると、言葉やコミュニケーションを司る水星ではなく、海王星や火星など、他の天体が文章表現の一部を代替して行っていることによって、類い希な才能を発揮しているという意味なのかもしれません。本物の格闘家が、腕力に頼ることなく、腰でパンチを出すようなものではないかと考えられます。
老いた度数のセクスタイル
各サインの最後の度数域は、老いた度数と呼ばれることがあります。この領域にある天体は、頑固になり、その意味合いを素直に表現できないことがあるとされています。太宰は、太陽と月と金星がこの度数域にあります。出生時刻がやや曖昧なので、月の度数はぴったりではありませんが、およそこの範囲にあることは確かで、金星とセクスタイルを作っています。28度以上の金星は、本当に好きな人とは結ばれない星と呼ばれることもあります。最終的に心中までしてしまった太宰の性質を考えると、この金星の位置とアスペクトはとても意味がありそうです。
芥川竜之介との相性
下図は、太宰治が憧れてやまなかった偉大な作家、芥川龍之介のホロスコープを外側においたシナストリチャートです。これを見るとアスペクトが28本も成立していますが、これは非常に多いといえましょう。特に芥川の持っている火の星座宮にある天体からのハードアスペクトが強烈です。ノートに名前を何度も書くほどに芥川を敬愛していた太宰ですが、もしも芥川が長生きして、二人が面識を持っていたなら、芥川は太宰を傷つけていたかもしれません。