例えばタロット占いのタイムアローが最もわかりやすいかもしれませんが、占いではしばしば時間軸を「過去」「現在」「未来」に分けて示します。さて、このとき「現在」というカードが示すのは、果たしていつのことなのでしょうか。今回はまたぞろ、そんな哲学的なことを考えてみたいと思います。
脳は時間を連続体として捉える
素早く目を動かして最後に時計を見ると、一秒がいつもより長く見えることがあります。これは、眼球が高速で動いている間に得られなかった視覚情報を、過去に遡って脳が埋めているためだそうです。この現象をクロノスタシスといいます。
瞬間とは何か
クロノスタシスの例で私が言いたかったことは、人間の脳は、過去に遡って情報を書き換えて、人間の時間に関する認識を変えてしまうことができるということです。そういう意味では、我々が今この瞬間として認識している時間が、果たして本当に今なのかどうかもわからないところがあります。すごく厳密な時間の先端の話をする限りにおいて、今この瞬間という表現には、ほとんど意味がないのではないでしょうか。
タロットカードのいうところの今
タロットカードが示している今とは何でしょうか、それはおそらく、というか間違いなく、クロノスタシスがどうのというような、細かい針の一点のような今この瞬間を指しているものではありません。過去というほどにかもではない、「この頃」という言葉で表すのが適切なくらいの時期のことを、占いでは今として解釈しているというのが妥当な表現だと思います。
3パターンの「この頃」の捉え方
「この頃」という言葉で示される、ある程度連続した時間の出来事や状況を説明するとき、その間の出来事のすべてを網羅的に読み上げるようなことはありません。具体的には、平均、ピーク、モードのいずれかが占いの答えとして示されます。感情や状況などは、朝と夜で違うのが普通で、常に一定のものではなく、波があります。
占いの場合は、期間の状況を平均化して表現するのが最も一般的かもしれません。似たような概念でモードというのがありますが、これは統計学の用語で、平均ではなく、最も頻出の値をとるという考え方です。例えば、「2,3,3,9,3」というデータがあれば、平均は5ですが、モードは3です。また、ピークとは、9のように突出したデータのことを指します。恋人とけんかした相談などでは、このピークが別れ話であるかどうかが重要であるため、占いの結果としてこちらが出てくることもあるのです。
「今」という時間の範囲と「過去」との違い
今という時間を、ある程度の長さを持った連続体と考えると、「今」と「過去」の切り替わりはどこなのでしょうか。また、「今」には「未来」を含むことはあるのでしょうか。
占いで示される現状はすべて過去である
占いが示す今が、仮に最先端であるタロットカードを引いたその瞬間であったとしてもなお、そのカードを解釈して相談者に伝えた瞬間には、それは過去のことになっているといえます。つまり、占いが示す「現状」は、占った瞬間から近い過去のことを指しているとしかいえません。では、「過去の状況」として表現されることと「現在の状況」として表現されることの違いは何でしょうか。
占いは表象に一致した表現で提示される
占いでいうところの「過去」と「現在」とは、すなわちシンプルにいえば、その言葉で形容するのが最もわかりやすい時間であると考えるのがよろしいと思います。つまり、すでに過ぎた話として解決していて、その相談には直接の関係はないけれど間接的に影響している出来事が「過去」の出来事であり、その相談に至る直接の状況が「現在」であると考えるとわかりやすいでしょう。占いの今とは、あくまでも、「今」という言葉で形容すると最もわかりやすい時間を指しているわけです。
「今」は未来を含むのか
占いが示す現在は、過去のことであると説明しました。しかし、相談内容と状況によっては、必ずしも過去が問題ではないこともあります。例えば、2月の高校生の恋を占ったとして、その現状が「戦車」であったなら、その恋人は春から東京に進学して遠距離恋愛になることを示しているかもしれません。それは未来の出来事ではありますが、具体的に迫った「現在」の問題でもあるわけです。こうした場合には、「未来」の部分に出ているカードが示すのは、遠距離恋愛になった後の一歩先の未来であると解釈できましょう。
まとめ
もしかするとこの時間の問題に限らず、占いは占的に対して最もわかりやすく、その言葉で形容されて一番しっくりくる内容を伝えてくれると考えるべきなのかもしれません。このブログを書き終えて気づきましたが、現在という言葉で平然と過去を示されたとしても、それに違和感がないのは、現在という時間が日常レベルにおいても過去と同一視されているからに他ならないでしょう。そんなことを考えていると、頭の中でこの歌が流れてきます。