占いは、人類の歴史の文化的側面に、深く浸透しながら、あらゆる文化とともに進歩してきました。時としてそれは王による神事としてあがめられ、また時には邪教として虐げられ、歴史の裏表を駆け抜けてきたといえましょう。今回は、そんな占いの歴史に絶大な影響を与えた歴史的人物として、ヨハネス・ケプラーを紹介したいと思います。
ヨハネス・ケプラーとは?
ヨハネス・ケプラー(Kepler, Johannes)は、1571年12月27日の14時37分にドイツの自由都市ヴァイル・デア・シュタットに生を受けました。ドイツを代表する自然鉄学者として、とりわけ天文学における業績が非常に有名です。
学生時代にはクラスメートのホロスコープを作成
若き日のケプラーはヨーロッパで最も古い大学の一つ、チュービゲン大学で神学や哲学、数学などを学びました。自然界における数の特別な意味を説くピュタゴラス学派や、美に対するプラトニックな愛を貫いて神に近づこうとする新プラトン主義などに傾倒し、いかにも占い師と話が合いそうな素養を身につけます。大学に在学中は、クラスメートのホロスコープをしばしば作ったそうです。私も含め、多くの占い師はそのような経験を持っていることと思います。親近感がわきます。
しかし、その実情は現代の占いファンのそれとは大きく異なっていました。コンピュータのないこの時代にホロスコープを作るというのは、実は占いの知識よりも数学の知識が必要でした。現代のように早見表のような天文歴を使った簡易な計算をするのではなく、煩雑極まりない計算式によって天体の位置を導き、数学的には解のない方程式を漸化式によって近似化してハウスを定めるのです。こうした計算の中で、ケプラーは占星術の数学的魅力にとりつかれていきました。
彼は何学者なのか
ケプラーは何学者なのかといえば、多くの人は天文学者だと答えるでしょう。しかし『西洋占星術の歴史』の著者SJテスターは、ケプラー自身の自己認識に基づき、彼を数学者に分類するべきであると主張します。ケプラーが最も興味を持ったのは、数学的に美しい比に従って構成される自然界の規律です。例えば、彼は火星の衛星が二つであることを導きましたが、その理論の出発点は「地球、火星、木星の衛星の数は等比数列 (1,2,4) をなしているだろう」というロマンチックな前提から始まっていました。こうした数の神秘は、当時は宇宙の構造解明においてこそ活躍の機会があったために、ケプラーは天文学に興味を持ったのだといえましょう。
占星術で生計を立てた若い時代
一般にはあまり知られていないことですが、大学を卒業してからのケプラーは、グラーツで教鞭を執る傍ら占星術で生計を立てていました。彼が最も興味を持っていたのは占星術の数学的な理論ではありましたが、マエストリンから学んだ古典的な占星術の知識は相当なものだったそうです。かの有名な「このおろかな娘、占星術は、一般からは評判のよくない職業に従事して、その利益によって賢いが貧しい母、天文学を養っている」という言葉を残していますが、これは彼自身の実体験だったのでしょう。天文学を研究するための費用を、占星術による身売りで稼ぐというような意味合いです。
西洋占星術に与えた影響
「おろかな娘」発言の印象でケプラーは占星術に対して否定的だったという印象を持っている人も多いかもしれませんが、実は意外なほどに占星術の応援者でした。少しずつ近代に近づいていく占星術の歴史の中で、ケプラーは占星術師として確かな足跡を残しています。
アスペクトの概念
天体同士の角度によってアスペクトを考慮するという概念を取り入れたのは、実はケプラーであると言われています。それまでの古典時代の占星術は、天体が属するサインの位置関係によってアスペクトを考えていました。例えば牡羊にある月と獅子にある金星は、それぞれの度数にかかわらず「スクエア」を形成するとされていたのです。ケプラーによってアスペクトは天体の属するサインの位置関係ではなく、今日同様に天体同士の角度を元に算定されるようになりました。
新しいアスペクトの創出
ケプラーは、新しいアスペクトも創出しました。数に着目したときに、プトレマイオスが算定した30度を基本単位としたアスペクト、すなわち今日のメジャーアスペクトよりも重要な角度があると主張しました。そうしてケプラーが作ったのが、36度を基本形としたキンタイル系列のアスペクトや、45度を基本としたセミスクエアやセスクィクォドレートなどの、今日でいうところのマイナーアスペクトです。ケプラーは数学的に意味の強いこちらのアスペクトを重視するべきと主張しています。
計算の精度の向上
今日の西洋占星術は、極めて高精度な計算を用いてホロスコープを作成して占いを行います。言わずと知れたケプラーの法則は、この高度な天体の一計算に莫大な影響を与えています。ケプラーの法則については、高校物理で習いますがやや難しいので、今度改めてブログにします。とにもかくにも、数学を愛し計算に秀でたケプラーが、ホロスコープの精度を底上げしてくれたおかげで、我々今日の占星術師は、天秤の29度59分を信じることができるのです。