占星術師はパソコンを使って占います。もちろんそれは、コンピューターが出す答えを読み上げるという使い方ではありません。相談内容に応じて、占いに絶対必要な材料であるホロスコープ(星の位置をしるした図)を計算するために使うのです。手相見が手を見るように、また易者が筮竹を繰るように、占星術師にとってホロスコープを見ることは絶対に必要なことです。
ホロスコープを描くには、非常に煩雑な手続きを踏まなければなりません。まずは目的の日時に、惑星やその他の天体が、どのような配置になっていたかを正確に計算する必要があります。もちろん、星の位置は暗記できるようなものでは無いので、パソコンを使わない場合には天文暦という辞書のような本を使って星の位置を調べることになります。さらに東の地平線が黄道上のどの点と交差しているかを計算して、そこから複雑な数理計算を用いて、ハウスと呼ばれる十二個の部屋に分割します。そして黄道の円心を起点にして天体同士がどのような角度を取り合っているのかを読み解きます。ホロスコープをより正確に、そして読みやすく描こうと思えば、この手続きは占いの結果を伝える貴重な時間の一部を浪費することになってしまうでしょう。
また、手書きのホロスコープでは誤差が無視できないレベルになります。天文暦の天体の位置は、網羅的に収録されているわけではなく、天体ごとに適した周期でサンプリングされた日時の位置が収録されているのです。それ故に目的の日時の天体の位置を知るためには、天文暦に掲載のある直前の日時の位置と、直後の日時の位置から計算して導く必要があるわけです。天体の運行は等速直線運動ではないので、当然ここで誤差が出ます。ちなみに、この計算は有効数字四桁のかけ算です。また、ハウスを計算する方法の主流であるプラシーダス方式では、厳密には大学レベルの三角関数を用いなければ計算できません。これを簡易的な方法で代用したならば、その誤差は少なからず鑑定結果に影響を与えるでしょう。
天体の情報を処理するという観点から見ると、コンピューターの使用は、単なる速度と正確さの追求以外にも付加価値を持っています。コンピューターの利用によって、占星術はハーモニクスという新技術を得たのです。天体の位置を様々な手法で再計算して、目的にあった特殊なホロスコープを得る方法です。また、生まれた日のホロスコープに、現在のホロスコープを重ね合わせて運勢を読み解くトランシットという技術は、コンピューターの使用によってその有用性を極端に広げました。
コンピューターによるホロスコープの計算は、手計算のホロスコープに対する完全なる上位互換です。易を立てる時に筮竹を扱うように、儀式的な必然性から手計算を行う必要は、西洋占星術にはありません。それでも手書きでホロスコープを描かなければならないというなら、パソコンの使い方が解らないのではないかと疑いたくなる程です。
ライプニッツは「立派な人間が労働者のように計算などという誰でもできることに時間をとられるのは無駄だ」といって計算機の開発に取りかかったといわれています。計算に取られる時間と脳の余裕があれば、それを相談者のためにもっと有効活用するべきだと考えています。