占星術を始め、様々な占いにおいて「月」は極めて重要な役割をになっています。地球の唯一の衛星にして、地球から見た大きさが太陽とほぼ同じ天体であるということを考えただけでも、月が人間に与える影響が小さからぬこと、そして占い師が月を無視してよいはずがないということがよくわかります。私も月に2回、ボイドタイムの情報をブログにまとめていますが、これもまさに月に関連する占いです。今回紹介する『月の魔力』は、まさに文字通りに月の持っている不思議な力にスポットを当てた本です。
『月の魔力』とは
『月の魔力』(原題: The Lunar Effect)は、月の神秘的な力に関連する書籍の中でも特に有名で、他の文献からも非常に多くの引用を受けています。私が10年ほど前にこの本に初めて触れたのも、書名は失念しましたが何らかの占星術関連の本で紹介されていたのがきっかけでした。
この本に書かれている内容は、緻密なデータによる分析の結果です。著者の信仰や経験による文学的な表現ではなく、しっかりとした客観的なデータに基づいています。それ故に、真摯に占いを学び、月の影響力を正確に知りたいと考える真実の占いの徒に、素晴らしい発見と学びをもたらしてくれます。
著者のA.L.リーバー
著者のアーノルド・リーバー氏の本職は精神科医です。しかもマイアミ大学医学部の准教授にまで上りマイアミ市警の精神医学コンサルタントまで勤め上げたほどの立派な医学者です。彼は、マイアミ市警との仕事の中で、凶悪な暴力犯罪のデータに触れる中で、月と人間の攻撃行動の驚くべき関係性を発見しました。それをまとめ上げて1978年にこの本を執筆したのです。
翻訳者の藤原正彦夫妻
この本の日本語訳に当たっているのは、ベストセラーとなった『国家の品格』の著者として名高い、数学者の藤原正彦氏なのです。恐妻家で知られる先生ですが、この本ではご夫婦で仕事に当たっています。素晴らしく微笑ましいことです。訳者後書きで藤原正彦氏は、月に関する言い伝えには迷信が多いものの、それを取るに足らないものて検証もせずに棄却することは科学者のとるべき態度ではないと断じています。それはまさに占星術をはじめ、占いに期待する占い師がもっている信念はこのようなものであると思います。そして、私が持っている改訂版の巻末には、藤原氏自身による新月と満月の類似性などに関する研究報告も記載されています。盛りだくさんの本です。
どんなことが書かれているか。内容の一部を紹介!
本編は全部で11章あり、それぞれ「月と攻撃性」や「月と自然サイクル」などといった非常に興味深いテーマで構成されています。月とそれに関する伝統的な言い伝え、そしてリーバー氏による新たな発見がたくさん盛り込まれています。その中からかいつまんで概略を紹介します。
「月と殺人」
リーバーの勤務する精神科の入院施設のスタッフは、患者たちの暴力的な行動が起こりやすい時期には一定の周期性があることを経験的に知っていました。満月になると精神が不安定になり暴力的な衝動に駆られる人が増え、救急医療の現場でも精神的に錯乱している患者が多くなるというのです。リーバーは、この経験則を正確な科学にするために、統計的に的確な手法で検証することを試みました。
具体的には、「暴力的衝動」という概念をはっきりさせるために、対象を明確な暴力である殺人事件に絞りました。この殺人事件は発生時刻が明瞭であり、統計を取るのに適していたのです。その結果、満月と新月において、殺人事件の発生件数が優位に多いことがわかったのです。これは、近代の統計学的手法を用いた正式な科学的データに基づいて月相と人間の行動の関連を証明した、非常に珍しいデータであるといえます。
「バイオタイド理論」
月と太陽の相関関係や、月の引力が人間に影響を与えているという考えと、心理学や精神医学をはじめとした様々な学問の知識を織り交ぜて筆者が発案したのがバイオタイド理論です。リーバーは地球が天体から影響を受けるのと同様に、人体も影響を受けているに違いないと唱えました。例えば地球上の海水面は月の引力の影響で満ち引きしますが、それと同様に人体を満たす水分も影響を受けるに違いないというのです。
リーバーによるバイオタイド理論は、若干未完成の印象が残る理論ではありますが、占星術師たちが自らの技術の理論的なバックグラウンドを作り上げることに、重要な示唆を投げかけてくれていることは間違いありません。天体が与える物理学的な影響力の存在を示す、実に興味深いテーマであるといえるでしょう。占星術師なら一読して損になるはずがない一冊です。